| マリモの分類
20世紀の後半までマリモにはいくつかの近縁な種に別れると考えられてきました。 しかし最近の研究によってこの説は誤りでありことがわかりました。
ここでは現在の分類と過去に行われてきた分類について説明したいと思います。
マリモの学名
マリモの学名はAegagropila linnaeiです。この名前に変わったのが2002年くらいなので、古い文献やサイトでは過去の学名のCladophora
sauteri が
掲載されていると思いますがご注意ください。マリモの学名を知りたい方は以上の説明で十分だと思いますが、マリモの学名の変遷について知りたい方のために(そんな方いるのかなと思いますが…)マリモの学名の推移について下に記しておくので参考にしてください。
現在作者がこの文を打っているのは2003年なのですが、今の時間が2050年頃だという読者の方は20世紀の終わり頃までマリモの学名はCladophora
sauteri でこの名前が当たり前のように使われていたと思ってください。
マリモの学名の変遷
発見初期のころ
マリモの一番最初の学名は 植物分類学の祖、リンネが発表したConferva aegagropila Linnaeusで
した。1753年のことです。このリンネが採取したマリモはスウェーデンのダンネモーラ湖から採取したもので、採取から250年たった現在でもイギリスの
リンネ協会に保存されています。しかしリンネが命名したConfervaはあまりにも広い分類で正しい系統を反映していなかったため以後使われなくなりま
した。
その次に出てくる学名は1843年にK醇/font>zingが発表しました。これはリンネの標本のマリモをAegagropila linnaeiとするものでした。(冒頭に書いた現在の学名と一緒ですね。)このときにK醇/font>zingはマリモ属(Aegagropila)というカテゴリを作ってマリモをそこに分類しました。このころにオーストリアのツェラー湖でもマリモが発見されていました。こちらのツェラー湖のマリモはAegagropila
sauteri と名付けられました。sauteriというのはツェラー湖でマリモを発見した植物学者のザウター(sauter)に由来します。この時点ではリンネの発見したマリモとツェラー湖のザウターが発見したマリモは別種だと考えられていたようです。
このあとK醇/font>zingはマリモ属をシオグサ属マリモ亜属としてシオグサ属にまとめました。これによってマリモはシオグサ属(Cladophora)になり、Aegagropila
sauteriは2002年まで馴染み深かった名前のCladophora sauteriという名前になります。日本の文献だとマリモはCladophora
sauteriとばかり記載されていますが、リンネのほうのマリモもCladophora linnaeiになったと思います。
日本での学名
日本で始めてマリモを世に紹介した川上瀧彌氏が「是れ緑色藻の一種Cladophora
sauteri にしてマリモ(毬藻)の和名を命ず」と発表して以来、日本のマリモの学名はCladophora sauteriと
して定着しました。川上氏が日本のマリモをリンネのスウェーデンのマリモではなく、オーストリアのツェラー湖のマリモと同定した真の理由は闇の中ですが、
ある
程度推測はできます。リンネのマリモは大きな球状ではなく現在残っている標本を見ると直径2cmほどしかなく、一方オーストリアのツェラー湖のマリモは
20cmを超えていたという記録があります。川上氏が採取したマリモの大きさはわかりませんが、現在の阿寒湖のマリモの大きさと同じくらいとすると、川上
氏が採取したマリモはツェラー湖のマリモと同じく
らいの大きさであったと思われます。とすれば、川上氏が阿寒湖のマリモをツェラー湖のマリモと同じものであるとしたのもうなずけます。あくまで推測なので
他の理
由で同定したのかもしれませんが…。
その後1980年代まで日本ではマリモの仲間の発見が相次ぎました。発見された場所や、細胞の形によってずいぶんといろいろな種に分けられました。その分類は一番下に記しておきますが膨大な分類がありました。
現在の学名へ
さてさて90年代に入ると様々な分析装置の発達により分子生物学的な立場から植物を分類することができるようになりました。DNA鑑定といった言葉が一
般に普及しだしたのもこの頃ですね。具体的にはDNAの遺伝子配列を見て生物間の類縁関係を探るといった研究が出来るようになりました。DNA配列が近い
ほど近縁種です。
日本国内に住むマリモとその仲間をのDNAを解析してみると驚くべき結果が出ました。
まずマリモは分類学上シオグサ目シオグサ属に属しているとされてきましたが 実際にはシオグサ目ではなくミドリゲ目と対等な位置で分岐していることがわかったのです。
またマリモの仲間の中でもタテヤママリモ以外は全部同じ種だということがわかりました。
つまりマリモは阿寒湖内の近縁種といわれていたフトヒメマリモとは区別ができず、さらに富士五湖に生息していた近縁種のフジマリモとも同じ種だという事が
わかりました。
解析の結果例を出すと、阿寒湖のマリモと北海道カラフトマリモとはDNAの500塩基対のうち1塩基対しか違いがなく同種であることがわかりました。
さらに海外のマリモとの類縁関係も調べられました。阿寒湖のマリモは最初にリンネが採取したスウェーデンのダンネモーラ湖のマリモと同一種だというこ
とがわかりました。またスウェーデンのダンネモーラ湖とオーストリアのツェラー湖のマリモも同一種であることがわかりました。
これまでのことを踏まえるとマリモはシオグサ属ではないことがわかりましたのでCladophoraという属名は正しくありません。
そして「日本の各近縁種マリモ(タテヤママリモを除く)=阿寒湖のマリモ=スウェーデンのダンネモーラ湖のマリモ(linnaei)=オーストリアのツェ
ラー湖のマリモ(sauteri)」(=は同じという意味ではなく同一種という意味でお願いします)ということがわかりましたので、sauteriより前
に命名されたlinnaeiを用いるのが適当と考えられます。
そこでこれまでの歴史をさかのぼると1843年にK醇/font>zingが発表したAegagropila linnaeiという表記が適当だとされました。2002年には藻類の国際誌にもマリモの学名としてAegagropila
linnaeiが発表されました。
〜1990年代初期の分類法
上で紹介した分子生物学的な解析が普及する以前は、日本のマリモにはいくつかの近縁種があると考えられてきました。ここで簡単に整理してみましょう。
本文中の集合体というのは普通私たちが「マリモ」とよぶ糸状体がからまりあったあの丸いマリモのような塊のことです。 糸状体などについて詳しくは「マリモの球化」のコーナーをご覧ください。
.糸状体の主軸および枝の細胞は円筒形である。
- 糸状体の主軸と枝のなす角が比較的広く開く。…C.sauteri f.kannoi カラフトマリモ
- 糸状体の枝と主軸のなす角が比較的狭い。
- 集合体の内部に隙間ができ、隙間内に新しい球体を形成する。…C.sauteri f.kurilensis チシママリモ
- 集合体の内部に隙間は存在しない
- 球形集合体の直径は5cmを超えるものが多い。…C.sauteri f.sauteri マリモ
- 球形集合体の直径は5cmを超えるものは少ない。
- 糸状体は緊密に集合して、ほぼ球形または楕円形の集合体を形成する。…C.sauteri var. yamanakansis フジマリモ
- 糸状体は比較的まばらに集合して柔らかい集合体を形成する。…C.sauteri f.profund トロマリモ
胸緇体の主軸および枝を成す細胞の形は棍棒型または樽型である。
- 集合体は自由に移動する…C.minima f.minima ヒメマリモ
- 集合体は他物に固着する…C.minima f.crassa フトヒメマリモ
文中の学名についている「C.」は「Cladophora 」の略です。また「マリモ」は複数の種があるという説、一種だが複数の変種があるという説、ただ一種であり変種も
認めないという説など様々な説が展開されていました 。現在では上記の分類はすべて同一種で、上の分類の中ではマリモとして考えられていたタテヤママリモのみがマリモと別種とされています。
参考文献:日本淡水藻図鑑 1977
マリモの科学 1991
毎日新聞朝刊 1997
遺伝53巻7号p.38〜p.64 1999
Journal of Phycology 38:564-571.2002
2001年12月作成
2002年9月16日改訂
2003年5月14日大改訂
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