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マリモの生活様式〜阿寒湖マリモの球化〜


 阿寒湖の美しいマリモはどの集合型に分類されるかというと「無核放射型」と呼ばれるものになります。阿寒湖のマリモの内部構造は糸状体が中心で連絡する ことなく放射状に表面に向けて配列しており礫などの核を含みません。集合体は大型化すると中心から枯死して腐ってきますが放射状に糸状体が並んでいるため 構造的に強固で最大直径30cmまで達します。阿寒湖のビロード状の美しいマリモはこの集合体が破損して再び球状に発達するというものです。



 ではその形成過程を模式的に示した上図をご覧ください。まず大きなマリモがあり ます。中は腐って空洞化していますが外側はまだ緑で生きています。空気の入ったボールのようなものを考えてください。外側のゴムの部分はマリモ糸状体が外 に向かって放射型に並んでいます。そのボールの集合体もついに壊れ糸状体はばらばらに なります。破損した断片は藻体の基部と頂部の方向がそろった長径3〜4センチの楔形(細長い三角形みたいな格好)の集合を生じこれが成長するとついで楕円 形さらには球形のマリモ球状体へと成長していきます。この過程で藻体の基部は楕円の一端から徐々に集合体の中心に移ります。こうやって阿寒湖の美しいマリ モは形成されるわけです。
 

↑阿寒湖のきれいなマリモ。研究者はこれも無核放射型集合体とロマンの無い名前で呼ぶ(笑)

↑育ちすぎて中が空洞になり自重に耐えられずぺちゃんこになったマリモ。中心部がへこんでいます。
皮って感じが伝わるでしょうか?

↑右の残骸も洗えばこんな色をしていて健康そうな糸状体の塊になる。大型球状体に育つのは何年後になるのでしょう。

↑湖岸に打ちあがっていた超大型球状体の残骸。これも糸状体その物は死んだわけではない。
上に乗っている白い棒はシャープペンシル。


球化のメリット

 マリモは湖の浅いところに何層にもかたまって転がっています。浅い所は水中にも日光が届くのでほかの植物も繁殖したい場所です。しかし他の植物が侵入するとマリモは底に転がっているので他の植物が光をさえぎってしまうのでうまく生長できません。 それでマリモは集団になって水底に転がり他の植物が繁殖するのを防いで生き延びてきました。 いわば「物量戦」で生き延びてきたわけです。
 しか何層にもなると下のほうのマリモには光が届かず
光合成ができませんから死んでしまいます。そこで波の力を利用して上下入れ替わり、かわりばんこに光合成するという生き方をしています。その入れ替わるのに適した形が丸い形なわけです。
またこの球状集合体の大きな特徴は、糸状体の集合状態が極めて緻密で比重が大きいことです。このことが元来マリモが生息できない流れの速い浅い底質が砂の 場所での生息を可能にしていると考えられています。しかもこうした浅い場所は集合体の成長に必要な光をたくさん得ることができます。ただ丸くなって転がっているだけなのになかなか頭のいいやつですね。



最初の無核放射型集合体はどこからやってきたの?

 ではではせっかく詳しく説明したのですしもう少しお付き合いください。上で阿寒湖の大型マリモは無核放射型の集合体で崩壊したものから再生すると書きました が、これは論理的に完璧ではありませんね。なぜなら一番最初の大型マリモができるとき形成過程の冒頭に書いた「まず大きなマリモがある」なんて状態はあり えないからです。一番最初のマリモはどこからやってきたのでしょうか?きれいな大型マリモができるのは流れの急な浅いところですから、ゆるい纏綿型や、放 射浮遊糸状体などの流れのゆるいところに生息する集合体が起源とはなりえません。もっとも可能性があるのは流れのある所でも生息できる「有核放射型」のマ リモが大型化し崩壊した後に再生過程を経て無核放射型の集合体となったというものです。実際択捉島の内保沼からはこういった有核放射型の例も知られています が阿寒湖のマリモ生息地付近の底質は砂か泥で有核糸状体が生成するような適当な基質は存在しません。

 この謎は90年代の終わりになってとかれました。阿寒湖のマリモ球状集合体は水深2mほどのところに転がっているのですが、その沖合い水深4〜5mの湖底の広 い範囲で湧水が確認されました。そこには浮遊糸状体がたくさん生息しているのですが、その群落直下の低質は泥です。これでは有核糸状体は生成されません が、その浮遊糸状体直下60cm下には1〜3cmの火山礫が堆積していたそうです。さらに水深2mほどの湖底から切り口がのこぎりで伐採された木の根っこ が見つかりました。つまり人間がのこぎりで伐採するような最近になってから阿寒湖の水位は2mほど上がったということです。これは阿寒湖が1920年ころ から水力発電用のダム湖として利用されているため、近代から湖の水位はかなり高い水準で維持されてきた事実と一致します。かつて湧水は水深2m付近のところに分布しそれは球状マリモが生息する水深と一致します。湧水は移動できませんがマリモ達は波の影響 などで移動できます。
 これらのことから以下のようなことが推測できます。かつて阿寒湖は水深2mほどのところに湧水が沸いていて付近の浮遊糸状体と火山礫が結ばれて有核放射 集合体ができていた。その有核放射集合体は崩壊して無核放射集合体の起源となっていた。近代になって人間は水力発電の利用のため阿寒湖の水位を2m上げた。その結 果湧水は水深4mほどになって泥が堆積し有核放射集合体の核となる火山礫は埋もれてしまい有核放射集合体はできなくなってしまった。一方球状マリモも強い 光がないと生息できないから水深4mになった湧水付近から水深2mの現在の分布地まで移動した。現在は有核放射集合体からの再生はなく無核放射集合体の再 生のみで阿寒湖のマリモは維持されている。
 これはあくまで可能性ですが過去の阿寒湖において有核放射集合体の形成と再生が起こっていた可能性は高いと考えれられています。


2002.10.3 作成

参考文献
「特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」第三次総合調査−報告書概要版−」1998 阿寒町教育委員会
遺伝53巻7号p.38〜p.64 1999

阪井與志雄「マリモの科学」1999
日本淡水藻図鑑1977