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小川原湖のマリモ〜高瀬川総合開発工事事務所をたずねて〜


はじめに
 青森県の下北半島の付け根の部分にある小川原湖では2001年にマリモが発見されました。この下北半島付近の湖沼は昔からマリモが生息されていることが 知られています。そのなかでも小川原湖は海とつながっている汽水湖ですのでマリモが無機塩分が多い水を好む良い例として注目を集めました。
 そういったわけから私も小川原湖を訪れてみたい、と思っていました。そして2002年の夏に下北半島のマリモ湖沼を訪れ念願の小川原湖岸に立つことが出来ました。(この辺の詳しい事情は下北遠征記の ほうに載せてあるのでそちらをどうぞ。)しかし、秋頃に「小川原湖のマリモを展示している施設がある」という情報を入手したので、この展示している施設に はすきあらば訪ねたい!と思いを募らせておりました。そしてこの冬、2002年も暮れにさしかかった頃大学の冬休みを利用したずねることが出来ました。展 示マリモの様子、また小川原湖に関するお話をいくつか聞かせていただいたのでそれを紹介していきたいと思います。

 はじめに言っておくと小川原湖のマリモは丸くありません。このサイトではくどいほど言っているので詳細は書きませんがマリモは丸い生物というわけではな く、マリモは糸状の一本一本の藻であってそれらが密生して丸い集合体を作ります。その集合体があの阿寒湖のマリモです。この辺の詳しい事情は「マリモとは」「マリモの生活様式」のコーナーにまかせます。

付近の地図 
小川原湖と八戸市は結構離れている。




  話を戻すと小川原湖では着生糸状体となったマリモが分布しています。見た目は石にこびりついたその辺のただの藻とあまり変わりません。右のほうにイメージ 図をのっけておきます。要するに見てもあまり楽しくないマリモです。まぁ通好みといったところでしょうか。それでもマリモには代わりありません。
 イメージがわかないかもしれませんが、下のほうで具体的な写真を交え説明していくので安心してください。



高瀬川総合開発工事事務所をたずねて

 では実際の高瀬川総合開発工事事務所の様子について説明して行きましょう。私が訪ねたのは2002年12月27日でした。
 
 ちなみにこの際、サイトを見てくださっている皆さんに向けて、「一緒に八戸に行ってマリモを見たい方はぜひ一緒に行きましょう」とサイト上に告知を出し ました。こんな時期に八戸まで来る方はかなりの物好きだろうなぁ、と思っていたのですが、そんな物好きな方が一名いました。それは当サイトとリンクしてい る「クロロフィル工房」の管理人のぱいんさんです。ぱいんさんとはマリモを見た後、冬の東北を一緒に旅行したのですがその内容は私が作成しているもうひとつのサイト、「軟式まりも部」に近々掲載する予定なので、この旅行がどんな顛末になったか興味がある方はそちらもどうぞ。

 閑話休題、12月27日八戸市にあるJR本八戸駅でぱいんさんと落ち合った後、タクシーで高瀬川総合開発工事事務所に向かいます。高瀬川総合開発工事事務所はこの辺にあります。タクシーの料金も本八戸駅から1000円以内に収まったと思います。

 さて高瀬川総合開発工事事務所にほどなく到着します。建物は4階建てくらいのいかにも「建設省の事務所」という風貌の建物でした。中に入ると真っ先に目に飛び込んでくるのがマリモを置いた水槽です。おお〜! っと歓声をあげて駆け寄ります。さすがに国の機関だけあってなかなか凝ったものを使用しています。


高瀬川総合開発工事事務所の外観



表札 国土交通省の管轄の事務所です
  それから受付に行って「以前連絡を差し上げていたマリモを見に来た北海道の大学生ですが…」と話すと担当の方がわざわざいらしてくださいました。「玄関で 立ち話もなんですので…」とおっしゃってくれてオフィスで簡単な説明をして下さることになりました。文字ばかりでも退屈だと思いますのでここからは写真と 聞いた話を交えて小川原湖とそこに住むマリモについて説明していきましょう。





小川原湖のマリモについて
 さっそくお部屋に入れていただいてマリモの話を伺います。以下そのお話を基にまとめてみました。
 小川原湖のマリモが見つかったのは2001年。本格的な汽水湖で見つかったのは国内初の事例で貴重な群落として注目されています。
 マリモの形態は上の図やおいおい出てくる写真をご覧になればわかると思いますが、岩や貝に付いた着生糸状体です。阿寒湖のような真ん丸のマリモは現時点 では小川原湖では発見されていません。マリモの生息場所は乱獲、盗採を防ぐため公表されていませんが、湖内のかなり広い範囲で見つかったそうです。

↑小礫にくっついたマリモ着生糸状体
緑のモジャモジャがマリモ


↑緑色の岩にこびりついているのがマリモ
「ただの藻」と見た目は大差ない

 かなり広い範囲で見つかったという事はマリモの量もそこそこ多いということなのですが、なぜこれまで発見されなかったのでしょうか。

 マリモは阿寒湖のような美しい球状体になれば人目に付くので発見されやすいのですが、小川原湖のマリモは着生糸状体が主となっています。着生糸状体は有 名になりすぎた真ん丸マリモからは想像できないような「ただの藻」に見えるのでこれまでマリモとして見つかっていなかったのではと思います。 
 また小川原湖の漁師さんたちの話によるとかつては姉沼、内沼付近の小川原湖で漁をすると網に球状マリモがひっかかったそうです。球状マリモは水を吸ってめちゃくちゃ重くなるので、その重さで漁の網を破ってしまったことがあったそうです。
 このとき「球状マリモ」として発見されれば有名になったと思いますが、漁師さんたちにとってはマリモは大切な網を破るやっかいものに過ぎません。それで マリモは「馬糞草」というあまりありがたくない名前をいただき漁師さんの目の敵にされていました。この厄介者は調査されることなく、時が移って湖が汚れて いく間に姿を消したと考えられています。

↑小川原湖岸。漁業が盛んな湖で漁船が舫ってある


↑シジミについたマリモ着生糸状体

  小川原湖は海跡湖という湖に分類されています。その名の通り昔は海で地殻変動などで海から隔離され湖となった湖です。ですから周囲には昔の貝塚などが点在 し海であったことが偲ばれます。現在でも汽水を好む貝が住んでいて、私が2002年の夏に行ったときも、湖岸は砂浜で湖水浴場が湖岸に開かれています。

 さて、「マリモの生活様式」というコーナーで述べていますが、砂の広がる湖底ではマリモは糸状体のままだと流されていなくなってしまいます。ましてや小 川原湖で発見されているのは岩、礫にくっついている着生糸状体です。砂浜の広がる小川原湖には一見、マリモ着生糸状体が暮らすことができる礫は無いように 見えます。
  しかし湖底には所々岩盤が露出したところがあります。そういった岩盤が露出しているところにマリモはくっついて暮らしているそうです。なかには数百平方 メートルの広さをもつ岩盤が露出したところもあるそうです。状態のよい所ではマリモはかなりの被度の高さで生息しているそうです。

↑さまざまなサイズの礫についている
マリモ着生糸状体。緑の藻は全部マリモ


↑水槽の掃除をしているとき剥がれたマリモ着生糸状体
ペットボトルの底で大きくなってる

   面白い物を担当者の方が見せてくださいました。写真のペットボトルをご覧ください。これはマリモです。マリモを展示している水槽の掃除をしているとき剥 がれ落ちてしまったマリモの着生糸状体を捨てるのも忍びないのでペットボトルに入れておいたら、短期間でかなり成長してしまったものだそうです。中の水は 何を使用しているのか尋ねたら水道水とのことでした。マリモを栽培されている方も多いと思いますが、こういったペットボトルの底で水道水という金をかけな い環境でもマリモは立派に成長することが高瀬川総合開発工事事務所で目の当たりに出来ました。
  さて地元の住民の方がこのマリモにどのくらいの関心を寄せているかというと、残念ながら関心はそれほど高くないようです。たまに小学生が環境教育の一環と して小川原湖のマリモに関する授業を行う程度だそうです。PR不足もあってか今後のマリモの「利用」方法とかに関してはまったくの白紙という状態だそうで す。そういう関心が集まりすぎて観光の目玉に担ぎ上げられ観光客が押し寄せ生息環境が悪化するよりはよいかもしれません。ただあまりにも関心が低すぎると マリモを顧みられない開発等が行われそうになっても保護活動が行われないという恐れもあります。一マリモファンとしてはそっとしてあげてほしいという反 面、こっちは蝦夷地からわざわざ見に来ている物に無関心なのかと思うと複雑な気分です。

↑ペットボトルマリモ拡大


↑別の剥がれたマリモ。
成長しているのがおわかりいただけると思う


↑マリモが置いてある水槽
後ろには説明のパネルがある

  この日は高瀬川総合開発工事事務所も御用納めの日。マリモについて話している間に「年末の所長挨拶を行う」という放送がありました。私達に説明している担 当の方を残して、部屋にいた方たちは所長挨拶を聞きにいってしまいました。「私達のせいでなんだか申し訳ないなぁ、あとで所長に怒られなければ良いが」と 思い、長居をするのも気が引けたので、最後に玄関においてあるマリモの水槽を拝見して退散することにしました。
  玄関前に水槽(75リットル水槽くらいかな?)が置いてあって、その中に貝や礫にくっついているマリモの着生糸状体がいます。水槽にはpH計と濾過装置、 蛍光灯が取り付けられていてなかなか豪華な水槽でした。水槽は玄関近くで冷える場所なのですが、まぁ冬にマイナス25℃以下になる阿寒湖で暮らすマリモに 較べれば八戸の屋内にいるマリモは温室そだちと言えるでしょう。ただ夏は八戸もかなりの高温になるらしく、ペットボトルを凍らせた物を水槽に入れ水温を下 げるとおっしゃっていました。

↑水から出してもらったマリモがくっついている礫


↑水槽から出してもらったシジミの
殻についているマリモ

  水は現在は水道水を使用しているとのこと。最初は小川原湖の水を使っていたのですが、すぐに藻が発生し水槽が汚れるので湖水は使用しなくなったそうです。 おそらく湖水に入っている藍藻・珪藻・マリモ以外の緑藻や、藻類以外の微生物の類が繁殖したのでしょう(うちのサイトでも川や湖の水をマリモの栽培に使うのは勧めておりません)そのあとミネラルウォー ターを使っていたそうですが、金がかかるので、水道水に切り替え、特に問題が無いようなので現在は水道水に落ちついたとのことでした。再び高瀬川総合開発 工事事務所でマリモ栽培に金をかける必要はない事を確認しました。

 水槽の周りには小川原湖やマリモに関する説明があってなかなか見ごたえがありました。担当の方が「せっかくだから水槽から出しますか?」とおっしゃって くださったのでお言葉に甘えることにします。すると担当の方は腕まくりをして水槽に手を突っ込んでマリモを出してくださいました。この冬にヒーター無しの 水槽に腕を突っ込んでくれるなんてエライなぁと素直に思いました。外は猛吹雪の日でしたので…。
 とってくださったマリモを写真に収めたり、そろりと触ったりしてみます。これぞマリモ着生糸状体という手触りでした。
 また水槽の近くに貼ってある小川原湖やマリモの説明を読みます。なかなか詳しく面白いものでした。
 マリモを水槽に戻し担当の方にお礼を言って退出をします。帰りがけに小川湖の概要が書かれた資料やマリモの写真、そしてできたばかりという小川原湖の生物をまとめたCD-ROMをいただいて再び恐縮します。

↑説明パネルの一部



小川原湖について
  まずこの事務所の名前の「高瀬川」は小川原湖を経由して太平洋に注ぐ川の名前でした。小川原湖も言ってしまえば高瀬川の中流にできた大きな湖みたいなもの です。まるで卵を丸ごと飲み込んでしまって真中が膨れている蛇のような形になっているのが高瀬川で、卵で膨らんでいるのが小川原湖にあたります。小川原湖 は最大水深25m、平均水深は11m、面積は63.2平方キロメートルと国内で11番目に大きい湖です。小川原湖は海が近く、海水が逆流して汽水湖となっ ています。お話によると湖から海に流れる水の量は一年で10億立方メートル、一方海から湖に逆流する水の量は4億立方メートル。これを見ても小川原湖が淡 水であるということがわかると思います。

 その海水と淡水が混じる環境のせいかシジミなど漁業資源も豊富で国内の内水湖の中でもトップクラスの漁獲高を誇ります。また渡り鳥の数も豊富で全国的にも稀なオオセッカの繁殖地としても知られています。近年は富栄養化も進行しアオコが発生しているそうです。
 まぁ小川原湖の話は個人的にはおもしろい話を聞いてきたし、マリモよりむしろ小川原湖の景観についてのほうの話のほうが多かったので、話したいのですがここはマリモのサイトですし、一つだけマリモと関係のある話をします。

↑小川原湖



↑小川原湖岸の様子

↑小川原湖岸にある湖水浴場

  小川原湖周辺の地図を掲げておきましたのでご覧ください。これまでマリモは小川原湖周囲では内沼、姉沼(この二つの沼は直接小川原湖とつながっている)、 田面木沼、市柳沼で見つかっていました。そしてこれらの沼から数キロしか離れていない鷹架沼と尾駮沼ではマリモは見つかっていません。私は以前「下北半島 の湖沼の紹介」というコーナーで「マリモが確認された沼から数キロしか離れていない鷹架沼と尾駮沼でマリモが発見されていない理由はこれら二つの沼の周囲 で行われている六ヶ所村の原子力事業関連施設の開発の影響かもしれない」と書きました。
 そこで担当の方にこれら二つ沼のことを聞くと「確かに開発の影響もあるかもしれません。それに加え鷹架沼・尾駮沼は小川原湖に較べ塩分濃度が非常に高い こと、それから水系が小川原湖をはじめとする高瀬川水系ではないということもあげられると思います。また本格的な調査もこの二つの沼では行われていないの でマリモがいるのかいないかも不明です。」とおっしゃっていました。近くとはいえ水系が別物だったとは気付いていませんでした…。う〜ん実際に流域に詳し いかたの話を聞くというのは新鮮でした。

 あとの小川原湖に関する話は高瀬川総合開発工事事務所さん自らが素晴らしいサイトを立ち上げられていらっしゃるので、気になる方はそちらをごらんくださ い。小川原湖の空中写真がたくさんあったり、湖の成立過程が詳しく書いてあったりと小川原湖好きにはたまらないサイトになっています。マリモについて簡単 にふれているコーナーもあります。

 高瀬川総合開発工事事務所さんのサイトへ





最後に

 内地で生きたマリモを見る事が出来るのは「西湖のマリモ」が見られる足和田村役場と ここ高瀬川総合開発工事事務所だけなのですが(2003年1月現在確認)、ここのマリモを見に来る人はいないようです。私が「このマリモを見に来る人はど のくらいいるのですか?」と担当の方に聞いたら「いや〜、まったくといって良いほどおりません」と苦笑しておられました。壁にはなかなか良いマリモの生態 についての説明も貼ってあるし、マリモを無料で見られる貴重な場所なのですが、いかんせんPRが足りないようでコアなマリモファンすらその存在を知らない まさにマリモ界の穴場となっているようでした。もし皆さんも東北に行く機会があればぜひ訪れる事をお勧めします。事前に連絡しておけば、詳しく説明してく ださると思いますし、百聞は一見に如かずで真ん丸いマリモしか見たことが無い方はぜひマリモ着生糸状体を生で見ることをお勧めします。担当の方が親切に教 えてくださると思います。




親切な説明をしてくださった高瀬川総合開発
工事事務所の佐々木さんありがとうございました

2003.1.21作成